さくらプロジェクトのブログ

タイ北部チェンラーイで活動する山地民の子どもたちのための教育支援NGO「さくらプロジェクト」代表の三輪隆が綴るさくら寮での日々

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フェロモン・パワー

2011/07/24 00:58 ジャンル: Category:さくら寮日誌
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私がタイに足を運ぶようになった最初のきっかけは、昆虫採集だった。

幼少時代は自然豊かな岐阜の片田舎に住んでいたこともあって、近くの山を飛び歩き、蝶やセミ、甲虫などを捕ってコレクションにするのが至高の歓びであった。社会人になった20代の後半の一時期、失われた少年期へのノスタルジーから、突然森の中をさまよいたい衝動にかられて、しばらく蝶採集癖が再燃したことがあった。そんなとき、職場にフィリピンに蝶採集に通いつめているおじさんがいて、その大先輩の手ほどきで東南アジアを採集旅行することになったのだ。そして運命的にたどりついたのがタイ北部の山岳地帯だったのだが、そこで運命的に山地民と出会ってしまってからは、蝶より人の撮影(主に美少女系)や華やかな民族衣装の収集のほうに関心が引き寄せられてしまった。(単に昔からのコレクター的性癖が対象を変えたにすぎないのかもしれないが)

まあ、子どもにとってはゲームなどにうつつを抜かしているよりは、自然に親しむほうがよい。親の趣味を自分の息子にも受け継がせたくて、息子がまだ歩きもしないうちから私はことあるごとに昆虫図鑑を見せたり、ビデオを見せたり、庭で採ってきた蝶を部屋で飛ばせて見せていた。その刷り込みの甲斐あって、7月で1歳半になったわが息子は、庭で蝶が飛んでいると「チョーチョ、チョーチョ」と日本語で叫びながら嬉々として追いかけまわるようになった。

昆虫採集に関しては妻も珍しく協力的で、せっせと庭でトンボやらセミなどを採ってきては息子に献上している。が、妻はなんと、捕ってきたトンボの翅を全部むしってから息子に差し出しているのだ。翅をもがれてみじめな姿になったトンボはか細い足だけを使って床をヨロヨロとはいまわっている。なんじゃこれは。

「だって翅があると逃げるじゃない」

「あのなー、飛ぶからトンボっていうの。昔流行った「あのねのね」の歌じゃないけど、翅をとったらただのアブラムシじゃねーかよ。脚までとったら柿の種だ」

捕虜にも逃げる自由ぐらい与えてやってほしいと私は思う。翅をむしられて一方的にいたぶられるなんて、拷問というか、あまりにもアンフェアだ。

山地民の人たちは、暑期になると林でツクツクボウシぐらいの大きさのセミを大量に採ってきて食用にしている。トリモチを先端に付けた竿で器用に採集するのだが、捕った先からいきなりあの美しく透明な翅をむしり取って、生きたまま、まるで落花生でも収穫するように袋に詰め込んでいるのを見ると、セミとしての尊厳はいったいどこに、とつぶやきたくなることがある。まあいずれすり鉢で生きたまますりつぶされたり、油で揚げて食べられてしまうのだから、尊厳も何もあったものではないのだが。

それはともかく、7月のある日、さくら寮生たちが「タカシ兄さん、女子寮の前の木に大きな蝶がいっぱいいるわよ」と教えてくれた。両手を広げて「こんなに大きいよ」と言っている。いくらなんでもこの世の中にそんなでかい蝶がいるわけないじゃんと半信半疑のまま駆けつけて見ると、高さ5メートルほどのガトーンの木のあちこちに、羽化したばかりの巨大な蛾が十数匹、葉っぱから垂れさがるようにして止まっていた。両手ほどもはないが、確かに子どもたちも驚くのも無理はない巨大さだ。

「これはヨナグニサンという名前の蛾だよ」

yonagunisan1.jpg 
ヨナグニサン

ちなみにタイでは一般的に蝶と蛾を明確に区別した呼び方がない。せいぜい夜飛ぶ蝶というぐらいだ。

ヨナグニサンはヤママユガ科の蛾で、前翅を広げたときの長さが13センチ~14センチにもなり、世界最大の蛾として知られている。日本では名前の通り、与那国島をはじめ沖縄の八重山諸島に分布し、沖縄県の指定天然記念物にも指定されている。タイでも保護種に指定されているようだが、どこでもわりと普通に見ることができ、毎年この時期になるとこのナムラット村でも夕暮れ時にバタバタと不器用に飛んでいるのを見かける。一瞬鳥か蝙蝠かと思うほどだ。さくら寮内でヨナグニサンがこんなに大発生したのは私の記憶にある限り初めてのことだ。

ガトーンというのは英名をサントールといい、センダン科の落葉樹で、雨期に直径10センチほどの薄黄緑色の丸い実をつける。そのままでも食べられるが、めっぽう渋いので、こっちの人たちはたいてい漬物にして食べている。女性の大好物だ。

ヨナグニサンの幼虫がこのガトーンの葉を食べて育ったのか、それとも他の食草から移ってきてここで繭を作ったのか定かでないが、羽化したての十数匹が静かにぶら下がっているのはなかなかに異様な光景だった。

yonagunisan3.jpg 
ガトーン

さっそく息子を喜ばせてやろうと思い立った私は、寮の壁にへばりついていたひときわ大きな一匹を素手で捕まえて、プラスチックのバスケットケースに入れて家に持ち帰った。息子は籠に入れられてぶるぶると翅を打ち震わせているそのモスラのような蛾を見てちょっとビビっているようだった。

しかし、驚いたのは息子だけではなかった。

翌朝、寝ている私を妻が「ひえー」という叫び声とともにたたき起しにきた。

「ちょっと、隣の部屋に来てみて。あのでかいチョーチョが、部屋中じゅうに…」

隣の居間の棚の上、昨日もちかえってきたヨナグニサンを入れていた籠にへばりつくかのようにヨナグニサンが十数匹、我先と鈴なりに群がっており、またその周りを数羽が鱗粉をまき散らしながらバタバタと飛びまわっているではないか。私は腰を抜かしそうになった。パニック映画の一シーンのようだ。

やつらは開けておいた窓から侵入してきたらしい。しかし、どこから、なんのために。ことさら異様だったのは、十数匹のヨナグニサンがほとんど折り重なるようにしてくっつきあいながら、昨日捕ってきた一匹を入れた籠に密着している光景だった。乱交状態である。

どうやら私が捕まえて籠にいれてあったヨナグニサンは雌の個体で、そのフェロモンの香りをかぎつけて、監禁状態にある我が同胞を求めて、オスたちがさくら寮から一斉にここに集結したらしい。蛾は蝶に比べて飛翔能力が弱く、あまり長い距離を飛ぶことができないと言われているが、フェロモンに対する嗅覚は抜群らしい。さくら寮から我が家までは直線距離にして300メートルほどだが、車に乗せて持ち去ったものだ。そのぐらいの距離にいる相手を嗅ぎつけるぐらい朝飯前のことなのであろう。それにしてもメス一匹を奪還するために15匹の雄とは、なかなか壮絶である。すぐに籠をベランダに出し、メスを解放してやった。

数日後、ヨナグニサンの大群はガトーンの木からも我が家のベランダからもあとかたもなく姿を消していた。籠の中にはおびただしい数の白い卵を残して・・・。ヨナグニサンの成虫は1週間ほどの寿命しかないという。セミよりも儚い命だ。

yonagunisan2.jpg 
籠の中のメスを求めて折り重なるオスたち。
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プロフィール

三輪隆

Author:三輪隆
1955年岐阜県生まれ。写真家・文筆家。タイ在住26年。さくらプロジェクト代表。

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