さくらプロジェクトのブログ

タイ北部チェンラーイで活動する山地民の子どもたちのための教育支援NGO「さくらプロジェクト」代表の三輪隆が綴るさくら寮での日々

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ある夜の訪問者

2009/02/24 21:03 ジャンル: Category:さくら寮日誌
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chao142-2_R.jpg  
さくら寮クリスマス会の一幕。新聞紙のファッションショー。


 
 

 
タイでも高齢者問題というのは今後深刻な問題になるだろう。

 ある日の夕方、カンポンから電話が入った。

「隆兄さん、ラフ族のおばあさんが突然寮の事務所にやってきて、今晩一晩泊めてほしいって言ってますけど、どうしますか? 町の病院にいってきた帰りなんだけど、もう山に帰る車もなくて泊まる場所もないんで、なんとか一泊だけでもと。隆兄さんのことも知っているっていうし」という。

「ま、とりあえずこっちに連れてきなさい」。

 さくら寮は町に近いため、生徒の父兄や山岳民族の私の知人が、山から降りてきて車の都合で村に帰れなくなったときなどにときどき簡易宿泊所として利用する。私も山の村で泊めていただいて一宿一飯の恩義を受けているし、足がなくて町中にも身寄りのいない人をむげに拒むわけにはいかない。もちろん寮の関係者や身元がちゃんとしていて信頼できそうな人に限ってである。近頃は麻薬の密売人なども多く、やばい人をうっかり泊めて警察沙汰になったりすれば、大変やっかいなことになる。

 おばあちゃんは私の知らない人物だった。向こうは私のことを知っているという。まあ、そういうこともあるだろう。ここ20年でタイ北部数百か所の山岳民族の村を泊まり歩いたとはいっても、目がいくのはたいてい若くてピチピチした娘さんばかりだから、それ以外の人に町で偶然出くわして挨拶されても、よく覚えていない、もしくは見覚えはあってもどこの村の人かすぐに思い出せないということはしょっちゅうだ。

 しかしこのおばちゃんに関しては記憶がみじんもない。ばあちゃんはカンポンに「この先生(私のこと)のことはよく知っているし、50バーツもらったこともある」という。お世話になった家の人は別にして、ただの顔見知り程度のおばあちゃんにお金をあげた記憶はない。いや、ボケたのは私のほうか。

カンポンが私をからかう。「もしかしたらこのおばあちゃんの娘さんかお孫さんにすごい美少女がいて、隆兄さん、その子にお小遣いをあげたらこのおばあちゃんが横取りしたんじゃないですか」


まさかねえ。だったら50バーツなんて額じゃなくて、もうちょっと出したはず…、いやいや。

でも、いったいどこの村の人だろう。おばあちゃんはタイ語がまったくできず、しかもかなり耳が遠いので、ラフ語さえあまり通じない。話していてもまったく要領を得ないので、ラフ族の寮生たちを呼んできて、このばあちゃんを知らないかと尋ねた。するとJ村のNやAほか数名の女子が「このおばあちゃんなら見たことがある」という。「じゃあ、君のJ村の人なのか」と聞くと、「いや数日、村に泊まっていっただけだ」という。 ばあちゃんの目撃情報(?)はR村のJ、M村のNからも寄せられた。

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さくら寮クリスマス会。カラオケ大会。



身寄りがなくて村から村を泊まり歩いているホームレスばあちゃんなのか。

「お金なら少しもってるんで、払うから泊めてくだせえ」

ばあちゃんは財布からしわくちゃの20バーツ札を数枚出して私に差し出した。

「いやいや、ばあちゃん、お金なんて払わなくていいけど」

 それにしても、あまり親切にしすぎてどこのどんな人かもわからないまま泊めてしまって、寮にそのままいつかれちゃったら、それもちょっと困るなあ。ここは老人保護施設ではないし。病院へいってきたというのも作り話かもしれない。

 ラフ族の寮生の通訳で身の上話を聞くと、旦那とはすでに死別し、成人した娘が二人いるのだけれど、バンコクに出稼ぎに行ったまま何年も帰ってきていないという。

 翌日寮に一泊して朝食を食べ終わり、一服したばあちゃんは、無言で一枚の紙切れを私たちに差し出した。そこにはタイ語で次のようなメモ書きがあった。

「このおばあちゃんを見つけたかたへ。このばあちゃんは耳が不自由で迷子なので、この電話番号に電話してください」
 書かれていたその番号に電話をかけると、電話に出たのは中年らしき女性だった。

「ああ、またその件ですかあ。じゃあ、お手数おかけしますが、今回だけはこっちに送ってきてください。で、申しわけないですけど、 その電話番号が書いた紙切れね、破ってゴミ箱に棄ててくれません? しょっちゅうこんな電話がかかってきて、困ってるんですよ」

 電話口の女性はそう面倒くさそうに言った。

「はあ。ところであなたと、このおばあちゃんのご関係は…」

「え、ちょっとそれは言えないんですけどね。とにかくそのメッセージは私が書いたんじゃないんでね。迷惑してるんですよ」

きっとばあちゃんは、親戚じゅうをたらいまわしにされているのだろう。

女性に送ってきてほしいと指定された村はさくら寮から約20キロ離れたところにあり、スタッフがバイクで無事送り届けた。しかし、おばあちゃんの居場所はそこにはないのだろう、と私は思った。

案の定、数日後、杖をついたばあちゃんが寮の近くを足早に歩いているのを見かけた。ものすごいスピードだった。いったいどこへ向かっていたのだろう。 



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ちょっと時季外れですが、さくら寮クリスマス会のひとこま。みなでピザとケーキをいただく。



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プロフィール

三輪隆

Author:三輪隆
1955年岐阜県生まれ。写真家・文筆家。タイ在住26年。さくらプロジェクト代表。

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