さくらプロジェクトのブログ

タイ北部チェンラーイで活動する山地民の子どもたちのための教育支援NGO「さくらプロジェクト」代表の三輪隆が綴るさくら寮での日々

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なじめなかった新入寮生

2006/06/25 16:38 ジャンル: Category:さくら寮日誌
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新学期が始まり、寮生たちがさくら寮に帰ってきた。今年はさくら寮、エコホーム合わせて46名の新入寮生が新しく仲間に加わった。

しかし、毎年新入寮生の何人かはホームシックにかかり、せっかく何倍もの競争率をかいくぐって入寮試験に合格したというのに、寮になじめず村に舞い戻ってしまう子もいる。

 今年も初日の保護者オリエンテーションが終わって、保護者たちが村に帰ろうとすると、数名の子どもたちが激しく泣き始めた。親と一緒に村に帰るというのだ。リス族の男の子Pは大声でわめき、地面に突っ伏して手足をバタバタさせ、お父さんや寮生数名が起こそうとしても、土まみれになりながらものすごい力で暴れて抵抗している。お父さんはかまわず去っていった。Pは地面にへたりこんだまま1時間ほど泣いていたが、しばらくすると泣き声はかぼそくなり、やがておさまった。続いてアカ族のT(7歳)が、帰ろうとする母親にすがって激しく泣きじゃくった。Tは結局その1週間後に村に帰ってしまった。

 3月末の入寮選考会ではこういった事態も想定して、親離れができているかどうかも観察し、選考のポイントにしていたのだが、やはり選考会と実際に入寮するときとはわけが違う。選考会は一泊我慢すれば村に戻れるということがわかっているから、どの子もなんとか耐えていたが、今日からは何ヶ月も親とはなれて暮らさねばならないのだ。

 夕方になって、今度はラフ族の村からやってきた小学生の少女Nが家に帰りたいと泣き出した。もうすでに荷物一切が入ったナップサックを背負って帰る準備をしている。「今から自分で歩いて村へ帰ることなどできないから、今夜は帰らせない」と言うと、Nは村に電話して親に迎えにこさせるという。村には携帯電話を持っている人もいるのだ。姉妹の父親は不在だったが、親戚の人が出て、お父さんは娘に帰ってこられては困るから、帰らせないでほしいと伝言してきた。

 そうこうしていると、Nはちょっと目を離したすきに寮からいなくなってしまった。村までは20キロ以上あるし、もうすぐ日が暮れる。チェンライのような田舎とはいえ、小さな女の子の一人歩きは危険だ。スタッフ、在寮生が手分けして探しに行くと、彼女は寮から500メートルほど離れたところを歩いていた。みなで説得して寮に連れて帰る。

 夜になって、親戚の人が父親と連絡をとってくれたらしく、雨の中、父親の代理の村人(父親は車もバイクも持っていない)が、バイクで寮にやってきた。一度村に帰らせて、父親のほうからじっくりと説得した上でもう一度寮まで送り届けるとのことだ。

 しばらくスタッフで協議した。ここで帰らせないといえば、Nはますます感情を取り乱し、どんな行動に出るかわからない。鍵をかけて監禁するわけにもいかない。いずれにせよ、今の精神状態では、寮に慣れるのはかなり難しいかもしれない。

「今夜は遅いし、雨も降っているし、一晩ここに泊まって、明日の朝、帰ったら」と勧めるのもきかず、Nは村に帰っていった。

 数日後、Nは父親に説得されて、寮に戻ってきた。父親も一緒にさくら寮に泊まった。

 翌朝、父親が帰ろうとすると、再びNも一緒に帰るといって泣きはじめた。お父さんは「なんてききわけのないやつだ」と、泣き叫ぶNの体を青痣ができるほど何度もぶった。見かねてスタッフが割ってはいったほどだ。結局父親はあきらめ、Nをも村に連れて帰ることになった。ぶたれても殴られても、それでも家に帰りたいという、娘の一途な気持ち、そして父親の複雑な思いを考えると、ちょっとこみあげてくるものがあった。

 この機会を逃せば、彼女が人生の中で勉学するチャンスはもう巡ってこないだろう。村には学校もないし、親にもほかの場所で娘を勉学させるような経済能力はない。おそらく今日の一日の行動と決断は、大袈裟にいえば、彼女のその後の人生を大きく左右する一日になるだろう。彼女自身、いつか将来、この日の決断を激しく後悔する日がやってくるに違いない。なぜあのときさくら寮に入っていなかったのだろう、と。同じように入寮のチャンスを与えられながら村に帰ってしまい、数年後に村で偶然会って、後悔の言葉をつぶやいた子を、私は何人も知っている。

 しかし、Nをタイムマシーンに乗せて、未来の彼女に会いに連れていくことはできないのだ。今の彼女には、まだ自分の将来を考える余裕も能力もない。両親と一緒に生活していたい。ただそれだけなのだろう。残念だけれども、いたしかたない。私たちとしてもこれ以上、寮にとどまるよう強制したりすることはできない。あと数週間、我慢していれば、きっとこの寮生活も楽しいことがわかるのに……。

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写真1~4:5月末に行われた新入寮生歓迎会。寮の近くの空き地で、泥の中を歩かされたり、闇鍋を食べさせられたり、先輩たちの愛情あふれるシゴキを受ける。これが終わる頃にはみな、すっかり寮にも先輩たちにも慣れ親しむのだが……。
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プロフィール

三輪隆

Author:三輪隆
1955年岐阜県生まれ。写真家・文筆家。タイ在住26年。さくらプロジェクト代表。

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